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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
疑いの心
傘の破れ目から雨が漏って、それが傘の柄を伝わって、ボタボタと死骸の上へ落ちる。それが君江には悲しいらしい。ひた泣きに泣いて掻き口説くのであった。
疑いの心
泣いても泣いても泣ききれなければ、口説いても口説いても口説ききれない。これが君江の心らしかった。
「雨におぬれにならないようにと、傘を持ちましてわざわざと、お迎えに参ったのでございます。傘はお役に立ちませんでした。いえいえお役に立ちました。このようにお父様をおおうております。でもわたくしといたしましては、傘で死なれたお父様をおおうてあげようとは思いませんでした。ほんとに夢のようでございます。悲しい悲しい悲しい夢! ……ああボタボタと雨が漏る。雨までがお父様をさいなむ。不幸な不幸なお父様!」
木立ちを通して田圃を越して、雨に漉されて色を増したはるかの町に燈火が見える。
自分は傘をさそうともせずに、しとどに雨にぬれながら、ひた泣きに君江は泣くのであった。
「上州甘楽郡小幡の城主、織田美濃守信邦様と申せば、禄はわずかに二万石ながら、北畠内府常真様のお子、兵部大輔信良様の後胤、織田一統の貴族として、国持ち城持ちのお身柄でもないのに、世々従四位下侍従にも進み、網代の輿に爪折り傘を許され、由緒の深いりっぱなお身分、そのお方のご家老として、世にときめいた吉田玄蕃様の一族