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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

三

「なんだ、そのためにわざわざ来たんですか」

「もうご存じだったのですか」

「新島八十吉という者のことでしょう」

「名は存じませんのですけれど、高松藩の方と水戸家の方とがいっしょだと伺いました」

「水戸家……それは妙だ」大助は眉をひそめた、「もう少し精しく聞かして下さい」

三

秀之進が宿へ帰って来たのは一刻ほど経ってからのことだった。大助は独りで、一通の手紙をひらいてじっと腕組みをしていたが、秀之進が坐るとすぐに云った。

「早水さん、いま跟けられていたのを知っていますか」

「そうらしかった」

「誰の手先だと思います」秀之進はなにも云わずに大助の眼を見た、「わたしは新島の助勢か、幕府の探索かどちらかだと思った、そうじゃない、あれは滝川内膳と結城寅寿の手先だそうです」

「…………」

「あんたの留守の間に柿崎の藤尾さんが来たんですよ」するどい眼で、秀之進はちらと部屋の中を見まわした、「五日間、駕と馬のぶっ通しで追って来たそうで、あんまり疲れているようすだから、風呂へはいって寝るようにすすめたんです、向うの部屋でもう眠っているでしょうが……」

「結城寅寿がどうしたって」

「ひと口には云えませんね、滝川老職も結城もひどくもがいている、ひどいもがきようですよ」