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にっき
日記
宮本 百合子
07 一九二一年(大正十年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,953 字 · 124 页
二月二十一日
そして読みかけの本をよんだ。けれども、絶えず句と句との間に何かそれには書いてないものが挾るのを感じた。
そしては時計を見る。時の経つのは恐ろしく長い、もう三十分も経ったろうと思って見ると、まだ、小さいふくらみのある蜂の剣のような針は、中央の6から五分ほか動いて居ない。
次第に手がつめたくなった。息が鼻翼と唇とで震えた、耳は極度に敏感になり、やがて錯覚を生じる。
戸外で、電車が通りすぎる音をきくと、それで来ると分かり切って居ながら胸がどきりとした。
自分は手に力がなくなったような妙な感じに打たれた。
二月二十一日(月曜)
夜、Aは学習院の福岡よりの招で行く。七時半から、一時間もしたらかえるだろうと云って行って、今十一時半になるが戻らない。
自分はじっとして居られない程不安を感じる。一度電車につきとばされたことがあってから、危険をすぐ思うのである。
十二時になったら電話をかけて見ようと思って居ると急に半鐘が鳴り出した。自分の心は名状すべからざる不安と淋しさと、緊張を感じた。
雨戸をあけて見る。戸外は柔かな月夜で、黒い青桐の枝の間から一つ星が輝いて居るのが見え、粉っぽい、こな白粉のように鼻を擽るなつかしいにおいが四辺一杯に漂って居た。