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にっき

日記

宮本 百合子

07 一九二一年(大正十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,953 字 · 124 页

青空文庫

十月十七日

夏頃、或はうすい赤ちゃ色の可愛い若芽の生えた春頃、此梢を仰ぐと、其処には、はっきり、桐そのものの存在、その姿発育、地上的な美しさの力などが、自分の心を打った。けれども今日、注意して眺めると、それから受ける感じは、まるで異って居る。同じ空に聳る幹を見あげても房々とした葉を見つめても。

私は、其処に、澄み澄んだ空気を先ず感じる。葉や幹などと云うものが、如何かにも軽く透明になり、仮令幹の地味な緑色の不透明であっても、心の眼は、明かな肌の引しまったトランスペランシーを感じる。人間の体までそうなり、心が、四季の他の時のように地上の種々にこだわらず、直接、空気、空、にとけ入ってしまう。故に秋は人に物を思わせる。

十月十七日(月曜)

岩波から出た『思想』

和辻さんの「原始基督教の文化史的意義」。

アングロサクソン民族に対する反感的比較は、自分にそうかなと思わせたが、キリスト教発生前後に於けるユダヤの文化的圏境をよく見てあると思う。此で、自分が江原氏の小説で、何故ユダヤ人が此程民族的にメシア、しかもユダが希望したプラクティカル・メシアを要求し、(キリストが売られたか)疑問にしたのが分ったような心持がした。