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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
彼は真っ暗な中に、ぽつんと淋しくしゃがんでいた。
「次郎や、次郎ったら。」
お民の声は、妙にすごかった。恐怖と怒りとがごっちゃになっているような声だった。次郎はそれでも身じろがなかった。そして、お民の口から漏れる烈しい息づかいに、じっと耳をすましていた。
そのうちに二人の眼が、だんだんと闇になれて来た。お民は浮き腰で地面をすかしていたが、次郎を見つけると恐ろしい勢いで飛びついて来た。そのために次郎のもっていた提灯は、地べたに押されて、ひしゃげそうになった。
「なんてずうずうしい子なんだろう。……さあ提灯をおよこし。」
お民は、ひったくるように提灯をとると、その中に手を突っこんで、マッチを取り出した。
ぱっとともるマッチの火に照らされたお民の顔は、気味わるく硬ばっていた。
どこかで、煩悩鷺がほうほうと鳴いた。
提灯をともし終ると、お民は次郎の手を鷲づかみにして、引きずるように歩き出した。その足どりがやけに速い。次郎は、何度も引き倒されそうになったが、息をはずませながら、やっとついて行った。草履の音と、下駄の音とが騒がしく入り乱れる。
村に這入ると、お民の足どりが急に落ちついて来た。