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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
同時に握っていた次郎の手を放した。
村といっても、一本筋の場末町みたいなところで、駄菓子屋、豆腐屋、散髪屋、鍛冶屋、薬屋、肴屋などが曲りくねって、でこぼこにつづいている。その間に、種油を搾る家が、何軒もあって、その前を通ると香ばしい匂いが鼻をうった。
どの家からも、蚊遣の煙がもうもうと流れ出している。次郎は、それが自分の汗ばんだ顔にこびりつくようで息苦しかった。
家なみが途切れて、また一丁ばかり闇が続いた。寺である。墓地の一部が、じかに路に沿っている。古い石塔が、提灯の火で煙のように見える。
次郎は、これまでお浜につれられて、夜ここを通る時には、非常に怖いところだと思っていたが、今日はそんな気がちっともしなかった。むしろ、ほっとしたような気にすらなった。そして、この墓地を通りすぎて明るいところに出ると、間もなく自分の連れて行かれる家があるのだ、と思うと、彼はいつまでも暗いところにじっとしていたかった。彼は急にぴたりと足をとめた。
「おやっ。」
暗いところに来て、再び足どりがせっかちになっていたお民は、次郎の草履の音が急に聞えなくなったので、ぎょっとして振りかえった。