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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

「何という情ない子だろう。もう六つにもなって。」

同時に彼の腰から下が、どたりと畳の上に落ちた。右足のくるぶしの落ちた辺が、丁度敷居の上だったらしく、ごつんと音がして、かなり強い痛みを覚えた。

彼はしかし、まだ眼がさめないふりをして、そのまま動かなかった。しばらく沈默がつづいた。

「まあ、あきれた子だね。」

お民は平手で、三つ四つ彼の臀を叩いた。それでも彼は、小豚の死骸のように転がったままでいた。そのうちに燈火がぱっと灯った。瞼を透して来る赤い光線の刺激で、おのずと眉根がよる。

「ううーん。」

次郎は寝返りをうつ恰好をして、光線をよけた。

「次郎、お前、寝たふりをする気かい。……よろしい。いつまでもそうしておいで。」

お民は、燈火をつけ放しにしたまま、そう言って蚊帳の中に這入った。あたりがしいんとなる。蚊のうなり声が、急に次郎の耳につき出した。と思うと、もう体じゅうがちくりちくりとやられている。

お民は、まだきっと蚊帳の中から自分を覗いているに相違ない。――そう思うと、自由に動くわけにもゆかない。彼はつらかったが辛抱した。

そのうちに彼はまた一つの智恵を恵まれた。