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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
「次郎、ここに坐れ。」
俊亮は自分のお膳の前を指した。その声の調子は乱暴だった。しかし次郎の耳には、少しも不愉快には響かなかった。彼はお民の眼をさけるように、遠まわりをして、指された場所に坐った。
俊亮は、盃をあげながら、三人の子を一通り見較べた。どう見ても次郎の顔の造作が一番下等である。眼付や口元が、どこか猿に似ている。おまけに色が真っ黒で、頬ぺたには、斜に鼻汁の乾いたあとさえ見える。彼は一寸変な気がした。しかし、そのために次郎をいやがる気持には少しもなれなかった。むしろ、かわいそうだという気が、しみじみと彼の胸を流れた。彼はにこにこしながら、元気よく言った。
「大きくなったなあ。体格はお前が一等だぞ。あすはお父さんが休みだから、大川につれて行ってやろう。泳げるかい。」
次郎は、しかし、返事をしなかった。彼はこれまで、学校の近くの沢で、桶につかまって泳いだ経験しかなかったのである。
「父さん、僕も行くよ。」
「僕もよ。」
恭一と俊三とが、はたから眼を輝やかして言った。しかし俊亮は、それには取りあわないで、次郎の方ばかり見ながら、
「次郎、どうだい、いやか、いやだったら大川は止してもいい。