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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

最初父に「汚ない」とどなられた時には、落胆もし、不平にも思ったが、二人の言いあいを聞いているうちに、やっぱり父の方に何か知ら温かいものがあるように感じた。で、父に「一緒に来い」と言われると、彼は何もかも打ち忘れて、はね起きる気になった。

彼の心は、しかし、はね起きると同時にぴんと引きしまった。というのは、その時お民が縁側を上って行って、お膳をしまいかけたからである。

次郎は卵焼のことが心配だった。もし母に気づかれたら、と思うと、彼は身動きすら出来なくなった。彼は、突っ立ってじっとお民の様子に注意した。

「おやっ。」

お民は小声でそう叫ぶと、けげんそうに振り返って次郎の方を見た。次郎はしまったと思ったが、すぐそ知らぬ顔をして、眼をそらした。

「貴方、卵焼を残していらしったんでしょう。」

「うむ、残していたようだ。」

「それ、どうかなすったの。」

「どうもせんよ。」

「次郎におやりになったんではないでしょうね。」

「いいや……」

「どうも変ですわ。」

「卵焼ぐらい、どうだっていいじゃないか。」

俊亮はちょっと首をかしげて次郎の顔を覗きながら言った。

「よかあありませんわ。