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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

それはつい今そこで別れた小四郎とその兄の少年だった。「兄さん、はたし合だ」そういう小四郎の声がした。

秀之進はそれで相手が藤田家ゆかりの者でないことをたしかめた。同時に胸へひらめいたのは、府中でうまくまいたあの男のことだった。江戸からずっと跟けて来た。滝川内膳ふくしんの者だという。そして明らかに自分の命を覘っていると思えるあの男。――そうだ、それに相違ない、そう気づくと秀之進は急にふしぎな闘志を感じだした。滝川内膳はつねに亀阜荘頼該を圧迫している人間だ。この男が自分を斬ろうとしているのも、自分が頼該の使者だからであろう。頼該と水戸とを接近させまいとする、内膳の執拗な意志によるのだ。――よし、斬れるなら斬ってみろ。

かれのそういう決意が通じたのか、それとも少年の声を聞いて邪魔の来ぬうちにと思ったか、相手は低く呻くように叫びながら、つぶてのようにとびかかって来た。

それはみごとな突だった。気合もすばらしいし、まったくの捨て身で、そのまま躰当りともみえるすさまじさだった。秀之進はその切尖がおのれの胸に触れたとみる刹那に、躰を捻った。両者のからだが烈しくうち当り、ぐいと右へもつれたとみると、突をいれた相手はあっと叫び、足をとられて転倒した、刀がその手からとんで、道の上で冴えた音をたてた。