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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
「すべてよしなにおたのみ申しまする」
なにもかも任せきったという態度である、内膳はふと哀れを催して、酒でも与えようかと思いついた。そこへおのれの家士のひとりが小走りにやって来た。
「申上げます、先刻より御門口へ水戸さま御家臣と申して四五人の若侍が押しかけておりまするが」
内膳は寅寿を見た。
「そやつらなにを申しにまいったのだ」
「水戸家お咎人が駆けこんだ筈、ひきわたせとやら喚きたてておりますが」
「……鼻のきくやつらだ」寅寿は色も変えずに云った、「では用談も終ったで、おいとま仕ろうかな」
「しかし今すぐでは……」
「なに今のほうがよかろう」そう云いながら寅寿はすでに座を立った、「あい済まぬが女乗物を都合して下され、きゃつら拙者の駕をつけてまいったに違いない、おそらくこの邸まわりに見張り番でも置いてあって、そやつの注進で駆けつけたものか……まあなんにせい山犬のいる道は通らぬがふんべつ、女乗物で裏から出ましょう」
「ではその支度を」
内膳は立って、寅寿を裏口のほうへ案内していった。
「いま暫くじゃ、内膳どの」暗い廊下へかかると、寅寿はなにやら期するところありげな調子でそう云いかけた、「寅寿はいま翅も手足ももぎとられたかたちだが、なにこれで朽ち果てるほど老耄はしておらぬ、見ておいやれ、いまに思いがけぬところから……思いがけぬ