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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

相手はそう云って伴れの三人を呼んだ、「実は一瓢さげて来たんです、よかったら付合って呉れませんか」

「酒は不調法ですが……」

「遠慮には及びません、こちらはごらんのとおり水戸っぽの荒くれです、一宿の縁の記念につきあって下さい、みんな坐れ」号令をかけるように叫び、四人がぐるっと秀之進をとり巻くように腰をおろし、「まず一杯」とすぐさま盃をつきつけた。

「水戸っぽ」と名乗るのを聞いて秀之進はその四人にはじめて興味をもちだした。かれは酒を嗜まないのでたいていは盃を手にすることを拒むのだが、おとなしく受けて返した。

「水戸の御藩士ですか」

「さよう、拙者は久木直二郎」

眉の太い偉丈夫がそう答え、つぎつぎに三人の名を云った。久木直二郎はよく覚えたがあとの三人は加地、渡、太田という姓だけしか記憶しなかった。

「あんたはどちらです」

「四国の讃岐の者です」

秀之進はそれだけしか云わなかった。久木はなにか意味ありげに秀之進の顔をみつめていたが、ふと唇を歪めて笑い、「そうですか、讃岐ですか」とひどく念を押すように云いざま、急にきげんの変ったようすで伴れのひとりをふりかえった。そして突っかかるように、「おい加地、きさまおれの云うことを蒙昧の説だと云ったな」