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ふたばていよだん

新編 思い出す人々

内田 魯庵

内田魯庵『新編 思い出す人々』。同一底本的分册已合并为一书。收入:二葉亭余談、淡島椿岳、鴎外博士の追憶、硯友社の勃興と道程、最後の大杉、斎藤緑雨、三十年前の島田沼南、美妙斎美妙、二葉亭四迷、二葉亭四迷の一生、二葉亭追録、明治の文学の開拓者、四十年前、露伴の出世咄。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,401 字 · 427 页

青空文庫

その留守中は淋しそうにションボリして時々悲しい低い声を出して鳴いていたが、二葉亭が帰って来て格子を開けると嬉しそうに飛付き、框に腰を掛けて靴を脱ごうとする膝へ飛上って、前脚を肩へ掛けてはベロベロと頬ぺたを舐めた。「こらこら、そんな所為をする勿」と二葉亭は柔しく制しながらも平気で舐めさしていた。時に由ると、嬉しくて堪らぬように踵から泥足のまま座敷まで追掛けて来てジャレ付いた。ジャレ付くのが可愛いような犬ではなかったが、二葉亭はホクホクしながら、「こらこら、畳の上が泥になる、」と細い眼をして叱りつけ、庭先きへ追出しては麺麭を投げてやった。これが一日の中の何よりの楽みであった。『平凡』に「……ポチが私に対うと……犬でなくなる。それとも私が人間でなくなるのか?……どっちだかそれは解らんが、とにかく相互の熱情熱愛に人畜の差別を撥無して、渾然として一如となる、」とあるはこの瞬間の心持をいったもんだ。

この犬が或る日、二葉亭が出勤した留守中、お客が来て格子を排けた途端に飛出し、何処へか逃げてしまってそれ切り帰らなかった。丁度一週間ほど訪いも訪われもしないで或る夕方偶と尋ねると、いつでも定って飛付く犬がいないので、どうした犬はと訊くと、潮垂れ返った元気のない声で、「逃げたのか、取られたのか、いなくなってしまった」