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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

喜太郎は、地べたにしゃがんで、血だらけの膝頭を両手で押えながら、次郎の方を向いて、犬が鳴くようにわめいていた。

「どうしたんかっ、おい!」

と、一人の先生が教室の窓から大声で叫んだ。同時に、お浜のいかにも急きこんだらしい、かん高い声が近づいて来た。

次郎は、自分のやったことが急に恐ろしくなった。そしてやにわに子供たちの間をくぐりぬけて、いっさんに校門の方に走って行った。

彼は、しかし、校門を出ると、すぐ迷った。

(うちに帰ろうか。それとも正木に行こうか。)

何しろ、血を見るような事件を起したのは、彼としても、全くはじめてである。いずれにしても、今度ばかりは無事にすみそうな気がしない。

ふと、彼は、今日は父が帰宅する日だということを思い起した。

(そうだ、父さんならきっと何とかしてくれる。)

そこで彼は、父が帰る時間まで、鎮守の杜にかくれていることにした。

しかし、杜にかくれてみても、彼の心は落ちつかなかった。不思議に今日は一人でいるのが怖い。村中の者が、今にも自分を取りかこみそうな気がする。喜太郎の父の庄八が、出刃でもぶらさげて来たら、どうしようかと思う。