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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
そのうちに学年が変って、彼は四年に進級した。そして、新しい校舎からは、木の香がそろそろとうせていった。同時に、お浜たちに関するいろいろの記憶も、次第に彼の頭の中でぼやけはじめた。
旧校舎のあとには、永いこと、土台石がそのままに残されていた、その白ちゃけた膚を、雑草の中から覗かせていた。次郎はそれを見ると、泣きたいような懐しさを覚えた。彼は、学校の帰りなどに、仲間たちの眼を忍んでは、よく一人でそこに出かけて行った。
ある日、彼が例のとおり、土台石の一つに腰をおろして、お鶴から来た年賀状を雑嚢から取り出し、じっとそれに見入っていると、いつの間にか、仲間たちが彼の背後に忍びよって来た。
「次郎ちゃん、何してんだい。」
次郎は、だしぬけに声をかけられて、どぎまぎした。そして、なにか悪いものでも隠すように急いで絵葉書を雑嚢の中に押しこみながら、彼らの方にふり向いた。
「ほんとに何してんだい。」
仲間の一人が、いやに真面目な顔をして、もう一度訊ねた。
「この石が動かせるかい。」
次郎はまごつきながらも、とっさにそんな照れかくしを言うことが出来た。そして、言ってしまうと、不思議に彼のいつもの横着さが甦って来た。