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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
「何だい、こんな石ぐらい。」
仲間の一人がそう言って、すぐ石に手をかけた。石は、しかし、容易に動かなかった。するとみんなが一緒になって、えいえいと声をかけながら、それをゆすぶり始めた。まもなく、石の周囲に僅かばかりの隙間が出来て、もつれた絹糸を水に浸して叩きつけたような草の根が、真っ白に光って見え出した。
次郎は、大事なものを壊されるような気がして、いらいらしながら、それを見ていたが、
「馬鹿! みんなでやるんなら、動くの、当りまえだい。」
と、いきなり彼らを呶鳴りつけた。
「なあんだい、一人でやるんかい。」
みんなは手を放した。
「当り前だい。僕だって一人でやってみたんだい。」
「何くそっ。」
最初に石に手をかけた仲間が、また一人でゆすぶり始めた。が、一人ではどうしても動かなかった。
「よせやい。動くもんかい。」
次郎はそう言って雑嚢を肩にかけると、さっさと一人で帰りかけた。
「馬鹿にしてらあ。」
仲間達は、不平そうな顔をして、しばらくそこに立っていたが、次郎がふり向いても見ないので、彼らも仕方なしに、ぞろぞろと動き出した。
だが、土台石も、夏が近まるとすっかり取り払われて、敷地は間もなく水田に変った。