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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
」
声はひくかったが、毒々しい調子だった。
「なあに、私が次郎にやったんです。……次郎、まだ残ってるなら、恭一や俊三にもわけてやれ。まさか、みんなは食えなかったんだろう。」
俊亮はにこりともしないで言った。
変にそぐわない空気が部屋じゅうを支配した。次郎は箱を恭一の前に置いて、父のそばに坐った。彼の心は妙にりきんでいた。
永いこと沈默が続いた。そのうちに、次郎の眼は、次第に病人の顔に吸いつけられたが、まだ心のどこかでは祖母と母とを見つめていた。
*
お祖父さんがいよいよいけなくなったのは、それから三日目の夜だった。次郎たちはもう寝ていたが、起されてやっと臨終の間にあった。念仏の声が入り乱れている中で、彼も、鳥の羽根で御祖父さんの唇をしめしてやった。
「御臨終です。」
医者の声は低かったが、みんなの耳によく徹った。次郎は、半ば開いたお祖父さんの眼をじっと見つめながら、死が何を意味するかを、子供心に考えていた。彼はその場の光景を恐ろしいとも悲しいとも感じなかった。ただ、死ねば何もかも終るんだ、ということだけが、はっきり彼の頭に理解された。
最初に声をあげて泣き出したのは、お祖母さんだった。