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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

そこへ次郎が、ぼとぼとと草履を引きずりながら通りかかった。彼はこの頃、仲間たちとあまり遊ばない。学校の帰りにも大ていは一人である。

「おい、次郎ちゃん、見ててくれ、僕、勝ってみせるから。」

と、由夫が彼を呼びとめた。

次郎は、これまで自分にも経験のある遊びではあったが、首だけになった蝗が、いくつもいくつも、二人の着物の襟にくっついているのを見ると、あまりいい気持はしなかった。生物の命を取ることが、このごろの彼の気持に、何となくぴったりしなくなっていたのである。

彼は、しかし立ちどまって、しばらく二人の様子を眺めていた。

竜一は、次郎に見られていると思うと、いよいよあせって、無理に蝗を襟におしつけた。蝗は、しかし、そのためにかえって噛みつかない。

「竜ちゃん、僕、もう八疋だぜ。」と、由夫は、横目で次郎を見ながら言う。

次郎はふだんから嫌いな由夫が、いやに落ちついて、竜一をじらしているのを見ると、むかむかし出した。

「竜ちゃん、よせ、そんなこと、つまんないや。」

彼は由夫の計画をぶちこわしにかかった。

「いやだい、もうすぐ追いつくんだい。」

竜一は、しかし、かえってむきになるだけだった。