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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
夕食を終えると、竜一と次郎とは、裸になって、庭に出してある縁台の上で、腕押しをはじめた。腕押しでは、竜一は次郎の敵ではなかった。次郎は一度くらい負けてやってもいいと思ったが、竜一の方がすぐやめてしまった。竜一は別に残念そうでもなかった。そして、
「一番星見つけた。」
と、だしぬけに、西の空を指して叫んだ。そこには金星が鮮かに光っていた。
それから二人は、縁台に仰向けに寝転んで、じっと大空に見入った。そして新しい星を見つけるたびに、やんやとはしゃいだ。次郎はそのあいだにも、春子が早くやって来ればいいのに、と思っていた。
空が螺鈿を鏤めたようになったころ、やっと春子がやって来た。次郎は、彼女が縁台に腰をかけた時、ほのかに化粧の匂いが闇を伝って来るのを感じた。
「蚊がつくわ。」
そう言って、彼女は、持っていた団扇で二人を煽いだ。次郎は、臥ていては悪いような気がして、斜めに体を起した。
「次郎ちゃん、帰りたくなったら、誰か送って行ってあげるわ。」
次郎は、春子が、来るとすぐそんなことを言い出したので、がっかりした。しかし、帰りたくないとは言いかねて、默って縁台を下りた。