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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

「やっと、さばさばしたわね。暑苦しかったでしょう。……もうこれからあんな馬鹿な真似はしないことよ。」

しかし、次郎は、たった一つの楽しみをもぎ取られたような気がして、変に淋しかった。

「姉ちゃん。」

と、はたで付替を見ていた竜一が言った。

「学校では、みんなが次郎ちゃんを怖がるんだよ。僕、次郎ちゃんと仲がいいもんだから、僕まで威張れらあ。」

「まあ、いやな竜ちゃん。」

春子は吹き出しそうな顔をして、そう言ったが、急に真面目になって、

「次郎ちゃんは、お友達に怖がられるのがお好き?」

次郎は、春子に真正面からそう問われて、うろたえた。そして、つまらないことを言い出した竜一を、心のうちで怨んだ。

「竜ちゃん、嘘言ってらあ、誰も怖がってなんか、いやしないじゃないか。」

彼はむきになって打消しにかかった。

「嘘なもんか。ほら、昨日だって、次郎ちゃんが行くと、みんな鬼ごっこをやめて、逃げちゃったじゃないか。」

「いけないわ、そんなじゃあ。」

と、春子は、絆創膏を貼り終って、じっと次郎の顔を斜め後から見下した。

次郎は何とか弁解しようと思ったが、どう言っていいのか解らなくて、椅子にかけたままもじもじしていた。