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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
すると、いきなり春子の手が、うしろから彼の肩をつかんだ。
「次郎ちゃん、お願いだからいい子になってね。いいでしょう、ね、ね。」
春子の頬が息づまるように、次郎の頬にせまって来た。次郎は柔かな光の渦に巻きこまれるような気がして、ぼうっとなった。そして、嬉しいとも悲しいともつかぬ涙が、ぽたぽたと彼の膝に落ちた。
「乳母やさんが聞いたら、どんなに心配するが知れないわ。」
春子の声が、彼の耳許でふるえるように囁いた。
次郎は、それを聞くと、いきなり椅子からすべって春子に抱きついた。
「僕、悪かっよ。僕……僕……」
彼は、顔を春子の胸にうずめて、泣き声をおさえた。春子は次郎の頭をなでながら、
「そう? 解ってくれて? じゃもういいわ。」
「なあんだ、つまんないなあ。姉ちゃん生意気だい、次郎ちゃんを叱ったりするんだもの。」
と、竜一は口を尖らしながら、それでも何だか訳がわからなそうな顔をして、立っていた。
「そうね、ほんとに悪かったわね。……じゃ、二人でお二階へ行ってらっしゃい。いいものあげるから。」
竜一はすぐ次郎の手を引っぱった。次郎は一方の手で涙を押さえながら、まるで、ずっと年上の人にでも手を引かれているかのように、竜一のあとについて、二階に行った。