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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
これまで、茶棚や、戸棚や、火鉢の抽斗ぐらいより覗いたことのなかった次郎は、長持や、箪笥の奥から、桐箱などに納められた珍しい品物が、いくつも出て来るのを見て、全く別の世界を見るような気がした。彼は、ともすると、暗い長持の底を覗きこんで、亡くなったお祖父さん、そのまたお祖父さんというふうに、遠い昔のことなど考えてみた。そして何とはなしに、家の深さというものが、次第に彼の心にしみて来た。そのために、彼はこれまでとは幾分ちがった眼で家の中のあらゆるものを見まわすようになった。
が、同時に彼は、美しい鍔をはめた刀や、蒔絵の箱や、金襴で表装した軸物などが、つぎつぎに長持の底から消えていくのを、淋しく思わないではいられなかった。俊亮は、むろん彼に何も話して聞かせなかったし、彼もまた訊ねてみようともしなかったが、風呂敷に包まれた品物が、その度ごとに、俊亮の自転車に結わえつけられて、人目に立たぬように何処かに持ち出されるのを、彼はよく知っていたのである。
風呂敷包が出来あがる頃には、大てい、お民が足音を忍ばせるようにして、二階に上って来た。そしてその包みの中を一応あらためてから、きまって右手を襟につっこんで、軽い吐息をもらした。