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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

「貴方、その品だけは、もっとあとになすったら、どう?」

彼女は時おり、力のない声で、そんなことを言った。しかし、俊亮の答は、いつもきまっていた。

「晩かれ早かれ、一度は始末するんだ。」

次郎は、そんな時には、不思議に母に味方がしてみたくなった。そして、長持に突っこんだ顔を、そっと父の方にねじ向けるのだった。

しかし、彼の視線がまだ父の顔に届かないうちに、それを途中でさえぎるのは、母の鋭い声だった。

「次郎、もういいから、お前は階下に行っといで。」

そう言われると、次郎の母に味方したいと思った感情は、一時にけし飛んだ。同時に、長持の中の品物なんかどうだっていい、という気になった。そして、あとに残るのは、父に対する親しみの感情だった。

だが、こうした秘密な売立も、そう永くは続かなかった。

ある日次郎は、父が小用か何かに立ったあと、一人で長持の前に坐って、長い刀を、おずおず半分ばかり引きぬいて、その鏡のような刃に見入っていると、うしろに足音がした。何だか父の足音とはちがうと思って、ひょいと振り向くと、そこにはお祖母さんが立っていた。次郎はびっくりして刀をぱちんと鞘に収めた。