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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

そして、すぐ角帯や洋服の間に割りこんで行って、どの品にも札を入れた。

眼ぼしい品がつぎつぎに彼の手に渡された。角帯や、洋服は、変な眼付をしておたがいに顔を見合わせた。次郎は、それが何を意味するのか、ちっとも解らなかった。彼はただ、いい品物がたくさん竜一の家にいくのだと思うと、いくらか安心した。

売立は夜の十時頃までつづいて、眼ぼしい品は大てい片づいた。残ったのは、虫の食った挟箱や、手文庫、軸の曲った燭台、古風な長提灯、色の褪せた裃といったような、いかにもがらくたという感じのするものばかりであった。

みんなが引上げたあと、俊亮と竜一の父とは、座敷に残って、何かひそひそと話し出した。俊亮は、次郎が、まだ、残っていたがらくたを眺めながら立っているのを見て、

「何だ、お前まだ起きていたのか。馬鹿だな。早く寝るんだ。」

と、いつになく、きびしい顔をして叱った。

次郎が、茶の間に這入って驚いたことは、いつの間に来たのか、正木のお祖父さんが、白い鬚をしごきながら、端然と坐っていることであった。お祖父さんの前には、お民とお祖母さんとが、悄然と首を垂れていた。次郎は、正木のお祖父さんの顔を見ると、急に、今まで売立を見ていたのが、何か非常に悪いことのように感じられだした。