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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

それから静かに手招きして、

「次郎、ここにお坐り。」

次郎が気味わるそうに坐ると、

「人を恨むんじゃないぞ。買って下さる方は、みんな親切な方じゃ。……なあに、要らないものを売って、要るものに代えるんだから、ちっとも構わん。いいかの、次郎。」

次郎は、そう言っているお祖父さんを、妙に淋しく感じた。彼は默っていた。すると、お祖父さんは、また言った。

「刀が欲しいのか。刀なら、このお祖父さんのうちに行けば沢山ある。」

「僕、欲しくなんかないけれど、僕、なんだかいやだったよ。」

次郎は、自分の気持を言いあらわす言葉に困って、やっとそれだけを言った。

「いやなのに、見ていたのかい。」

お民がすぐ問いかえした。

「恭一なんか、いやがって覗こうともしなかったのにね。」

と、お祖母さんが、それにつけ足した。

正木のお祖父さんは、にがりきって、また顎鬚をしごいた。

そこへ俊亮と竜一の父とが、晴れやかな笑い声を立てながら、這入って来た。俊亮は、正木老人を見ると、急にあわてて、

「やっ、これは……」

と、いかにも恐縮したらしく、その前に坐って両手をついた。

次郎の眼には、父のそうした姿勢が全く珍しかった。