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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

と、正木のお祖父さんが、俊亮を見て何か言おうとした。

すると、本田のお祖母さんが、

「俊亮、お前何をお言いだね。せっかくこちらのお祖母さんが、ああして気をつかっていて下さるのに。」

「いや、こいつは大しくじり。わっはっはっ。」

俊亮はわざとらしく笑いながら頭をかいた。しかし誰も笑わなかった。みんな妙に顔をゆがめて、本田のお祖母さんから、眼をそらした。

子供たちは、菱の実がなくなると、すぐ縁側に出て腕角力やじゃんけんをはじめていたが、次郎は、その方に心をひかれながらも、大人たちの席から、遠く離れようとはしなかった。彼は、畳と縁との間の敷居に尻を落ちつけて、庭の方に向きながら、耳の神経を絶えずうしろの方に使っていた。

庭の隅に一本の榎の大木があった。その枝の間を、まんまるい月がそろそろと昇りはじめた。初秋の風が、しのびやかに葉末をわたるごとに、露がこぼれ落ちそうだった。次郎はいつとはなしに、それにも眼をひかれていた。彼の心は子供たちの騒ぎと、うしろの話し声と、美しい月の光との間にはさまれて、しょんぼりと淋しかった。

話は、いつの間にか、ひそひそした声になっていた。