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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
それでも秤は錘の方がはね上った。すると肉屋はまたそれを俎の上におろして、ほんの少しばかり端っこを切りとった。そしてもう一度秤にかけた、今度は錘の方がやや低目になった。すると、切りとった端っこの肉を、更に半分ほど切りとって秤の肉につぎ足した。それで秤は大たい水平になった。肉屋はその肉を俎において刻み終ると、からからになった脂肪の一片をそれに加え、竹の皮に包んで次郎に渡した。次郎は、牛肉というものについて、ある新知識を得たような気持で、それを受取った。
彼は受取るとすぐ、周囲を見まわしながら、それを懐に押しこんだ。そして恥ずかしいような、誇らしいような変な気分を味わいながら、母の病室に這入って行った。
病室には正木の老夫婦の外に、ついさっきまでいなかったはずの謙蔵がいた。次郎はお祖母さん一人の時の方が工合がいいように思ったが、思いきって竹の皮包みをみんなの前に出した。
「何だえ、それ。」
お祖母さんがたずねた。
「牛肉だよ。」
「牛肉? どうしたんだえ。」
「買って来たのさ。」
「買って来た? どこで?」
「村に売りに来ていたんだよ。」
みんなは変な顔をして、竹の皮包みと次郎の顔とを見くらべた。