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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

「誰かに言いつかったのかい。」

「ううん。」

「お金は?」

「僕持っていたんだい。」

「お前のお小遣い?」

「そう。」

「何で牛肉なんか買って来たんだえ。」

「母さんが、鶏のスープはもう飽いたって言っていたからさ。」

「まあ、お前は……」

お祖母さんは急におろおろした声になって、ぼろぼろと涙をこぼした。お民の眼にも涙が浮いていた。謙蔵は微笑しながら言った。

「そいつは感心だ。で、どれほど買って来た?」

「三十銭だけど、たったこれっぽちさ。」

次郎はそう言って竹の皮を開いて見せた。お祖母さんがそれでまた涙をこぼした。

「いや、今日は牛肉のご馳走が沢山に出来るぞ。叔母さんも、さっき一斤ほど買ったようだから。はっはっはっ。」

謙蔵は、以前のいきさつなどすっかり忘れているかのように朗らかだった。次郎は、しかし、それを聞いてちょっとがっかりした。小さな竹の皮に、薄くぴったりと吸いついている赤黒い肉が、彼の眼にはいかにもみじめだった。

「次郎、ありがとう。じゃ叔母さんに買っていただいたのと一緒にしてお貰い。」

次郎は、母にそう言われて、少しきまり悪そうに、もとどおり竹の皮包みに紐をかけた。