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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
」
次郎は、むろん躊躇しなかった。そして第二回目からは、案内も乞わないで、さっさと薬局の中に這入りこんだ。たまには足音を忍ばせて春子を驚かしたりすることもあった。
調剤の時には、春子はいつも真っ白な上被をかけ、うぶ毛のはえた柔かな腕を、あらわに出していた。次郎にはその姿が非常に清らかなもののように思われた。彼は春子が仕事をしている間は、自分からはめったに話しかけなかった。そして、ガラスや金属のふれあうひそかな音に耳をすましながら、一心に彼女の手つきを見つめた。
春子は、ガラスの目盛をすかして見たりしながら、よく次郎に母の容態をたずねた。そんなときには、次郎はいかにも心配らしく、かなり大ぎょうな調子で、自分の直接知っていることや、祖母たちの話していることを伝えた。そして、春子が眉根をよせたり、眼を見張ったり、「まあ、まあ」と叫んだり、或いは笑顔になったりする表情を、自分自身に対する深い同情のしるしとして受取り、甘い気分になってそれに陶酔するのであった。
彼が薬局に来ているのを知ると、竜一がすぐ飛んで来て、彼をほかの部屋に誘い出そうとした。次郎は、しかし、それをあまり喜ばなかった。