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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
次郎はしばらく、教員室に最も遠い校舎の角の、日陰になったところに、一人でぽつねんと立っていた。そして掃除当番のがたぴしさせる音が少ししずまったころ、再び校門を出た。
強い日照の路を、彼はかなりゆっくり歩いた。そして竜一の家についてからも、しばらく内の様子をうかがってから、敷居をまたいだ。敷居をまたぐと、すぐ左側は薬局の窓だったが、中はしいんとしていた。彼はいつものように自分勝手に上りこむ気になれず、いかにも遠慮深そうに、「竜ちゃあん。」と呼んでみた。どこからも返事がない。遠くの方から、食器のふれるような音が、かすかに聞えて来る。彼はもう一度呼んでみる勇気が出なくて、そのまま上り框に腰をおろした。
彼は少しつかれていた。戸外のぎらぎらした光線が、汗ばんだ彼の顔を褐色に光らせていた。彼は気が遠くなるような、息がはずむような変な気がした。
「あら、次郎ちゃんじゃない? 今日はお薬の日だったの?」
だしぬけに春子の声がうしろにきこえた。次郎はうろたえて立ち上りながら、
「ううん、竜ちゃんは?」
「竜一? いるわ。たった今学校から帰って、ご飯たべたところなの。