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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
実際彼には、言訳をするだけの心のゆとりがなかった。また言訳をしようとしても、証拠があまりに歴然としていて、全くその余地が残されていなかった。そんな場合に、彼が自分の過失からうけた災害が、みんなの同情をひくほど大きかったということは、彼にとって何という仕合わせなことであったろう。
彼はみんなにいたわられ、慰められながら、母屋の方に運ばれた。そして取りあえず卵の白身を顔一ぱいに塗られ、その上に紙を張られた。その時になって彼自身も気がついたことだが、手頸から親指にかけても、かなり大きく皮膚がただれていた。そこにも卵の白身が塗られた。
それから一時間あまりもたって、竜一の父が来た。そして今度は変な匂いのする黄いろいものをべたべたと塗りつけ、眼と口だけを残して、ほとんど頭全部に繃帯をかけた。彼は繃帯をかけながら言った。
「ほんの上皮だけだから大したことはない。しかし、笑ったり泣いたりして、顔をゆがめちゃいかん。」
そのくせ、彼自身はそう言いながら笑っていた。
次郎は、寝ているには及ばない、と言われた。しかし起きれば母の部屋に顔を出さないわけにはいかない。それは気づまりで、彼はもう大して痛みを感じなくなってからも、じっと寝ていた。