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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
いろんな人が彼をのぞきに来たが、誰も彼も、
「案外大したことでなくてよかった。」とか「もう痛みはとれたのか。」とか、そういった同情的な言葉だけを残して行った。
誠吉はお延にひどく叱られたらしい。彼も実は、右手の小指から手首にかけて、細長く火ぶくれがしていたが、それを誰にもかくしていた。夜になって、こっそり次郎にだけそれを打ちあけ、枕元にあった黄いろい薬を少し貰って塗りつけながら、彼は母に叱られた話をした。
「お祖父さんに叱られやしない!」
次郎は、祖父にだけまだ言葉をかけてもらえないでいるのが、非常に気がかりだった。
「ううん、何にも言わないよ。」
誠吉は無造作に答えた。しかし次郎は、そう無造作に言われると、かえって胸が重たくなった。彼は、祖父の自分に対する愛がこのごろ衰えたとは決して思っていない。だが、その愛には何か犯しがたいものがあって、うっかり飛びついて行けないような気がする。牛肉一件以来彼はそうした気持になっているのである。その意味で、祖父に愛されていることは、彼にとって一つの重荷でさえあると言える。しかし、それだからといって、彼は祖父の愛から逃げ出したい気持には少しもなれない。