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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

食事中に俊亮は、今日の次郎の水泳ぶりを大袈裟に吹聴した。そして最後に、

「今日のようだと、次郎は何をやっても人に負けるこっちゃない。」

そう言って愉快そうに次郎を顧みた。次郎は話の途中から、すっかり興奮しながらも、みんなのそれに対する受答えがどんなふうだか、知りたかった。彼は肴の骨をしゃぶりながら、始終盗むようにみんなの顔を見まわしていた。しかし彼は、予期に反して、誰からも彼の満足するような言葉を聞くことが出来なかった。

お祖父さんは、始めから終りまで、無表情な顔をして「ほう、ほう」と言っているだけだった。お祖母さんは、たえず何かほかの話をしかけては、みんなの注意をかきみだした。お民は最後まで熱心に耳を傾けてはいたが、話が進むにつれて、むしろ不機嫌な顔つきになった。直吉は、次郎が水を呑んだ話のところで吹き出したきりだった。ただお糸婆さんだけが、

「まあ、次郎ちゃん、お偉いですね。」

と言った。しかし、それも次郎の耳には、ほんの口先だけ俊亮にあいづちをうったものとしか聞えなかった。

夕飯がすむと、間もなく俊亮は町にかえる支度をはじめた。

次郎は妙に心が落ちつかなかった。