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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
」
「すぐかなあ。」と、まだ不安らしい。
「橋を渡ったら、土堤を右に行くんだ。それから一軒家のてまえで土堤を下ると、あとは真直だ。」
「ああ、わかった。僕行こうか知らん。」
「行くか。偉い偉い。もし泊りたけりゃ泊って来てもかまわんぞ。」
次郎は立ち上って帯をしめ直すと、もう出て行きそうにした。俊亮はその様子を面白そうに眺め入って肝腎の用事をいいつけるのをうっかりしていた。
「次郎、お前、ほんとに大丈夫かい。」とさすがにお民も気づかわしそうだった。
「僕、平気だい。」と次郎は、すっかり得意になって、室を出かかった。
「まあ、次郎、お父さんの御用事も聞かないで行くのかい。……貴方、どうなすったの、御用事は。」
「おっと、そうだ。次郎、ちょっと待て、これを持って行くんだ。手紙が這入っているから、なんにも言わんでいい。風呂敷ごと誰かに渡すんだ。いいか。」
次郎は包みを渡されると、それを振廻すようにしてさっさと土間に下りた。お民は、やはり気がかりだったと見えて、恭一の手を引きながら、門口まで出て、何かと注意した。しかし次郎はそれにはろくに返事もしなかった。
正木の家までは、ざっと小一里もあった。