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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

炉の中に惜しげもなく投げこまれた蝋糟が、ごうごうと音を立てて、焔をあげているのも景気がよかった。

次郎はこの家に来ると、妙に甘い空気に包まれる。

そのせいか、ほんのちょっとした事にも、すぐ泣き出してしまう。従兄弟たちは別に意地悪をするわけでもないが、子供同士のことで、たまには口喧嘩をしたり、ぶっつかったりすることもある。そんな時に、きまって泣き出すのは、次郎の方である。それは、彼の実家でのふだんの様子を知っている者には、実際不思議なくらいだった。

この日も、彼と同い年の辰男を相手に、炉の前に積んであった蝋糟の中で角力をとっているうちに、つい泣き出してしまった。それを年上の従兄弟たちがなだめて、やっと機嫌を直させたところへ、ひょっくり思いがけない人が這入って来た。お浜であった。

「まあ、坊ちゃん、しばらく。」

次郎はちょっとの間、ぽかんとしてお浜の顔を見ていたが、きまり悪そうに俯向いて、くるりと背を向けた。

「おや、どうなすったの。」

お浜は、次郎の前にまわって、中腰になりながら、彼の顔をのぞきこんだ。

「まあ、泣いてたようなお顔ね。」

そう言って、彼女は次郎を抱きすくめるようにしながら、炉の前の蓆に腰をおろした。