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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
厭きが来ると、次郎はいつもお兼だけをのけ者にしてお鶴と二人きりで遊びたい気持になるのであった。お兼は恭一と同い年、お鶴は次郎と同い年で、これが次郎をして自然お兼よりもお鶴の方に親しませる理由だったらしい。が、同時に、色の黒い、藪睨みのお兼にくらべて、ふっくらした頬とくるくるした眼をもったお鶴の方が、より大きな魅力であったことも否みがたい事実であった。
ところで、次郎にとって、ここに一つの悲しむべきことがあった。それはお鶴のふっくらした左頬に、形も大きさも、お玉杓子そっくりなあざが一つくっついていたことである。次郎はいつもそれが気になって仕方がなかった。その日も、ままごとに厭くと、お兼にくるりと尻を向けてお鶴と差向いになったが、その時、早速眼についたのがそのお玉杓子であった。
お鶴は、次郎のそんな仕草にはちっとも気がつかないで、相変らず草の葉を刻んでは、せっせとそれをブリキ罐の中にためこんでいたが、永いこと陽に照らされて、ピンク色に染まったその頬の上に、鮮かに浮き出したお玉杓子が、次郎の眼には、いかにも血がかよって動いているように見えたのである。
次郎は変に心が落ちつかなくなった。