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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

第十五章 詩と民衆

しかし小説に於ては隠すべきだ。」

** 「俗物」という観念は、世間的にしばしば趣味の低い人や、金銭の利殖に熱心な人を指している。だがこうした俗解は誤っている。なぜなら、世の中には、殆ど没趣味な人間でありながら、宗教や道徳の正義を感じているような義人があるから。また銭屋五兵衛や紀文の如く、生涯金銭の利殖を求めていて、しかも詩人的にロマンチックな人物もいる。仏蘭西啓蒙期の詩人ウォルテルの如きも、非常に実利的で利殖に抜け目のない人物でありながら、しかも当時一流の人間的情熱家だった。畢竟上述のような俗解は、風流人の対語として考えられている観念である。それは何の俗物でもなく、単に非風流人――風流を解せぬ人物――と言うにすぎない。

第十五章 詩と民衆

詩という文学は、元来言って公衆的の文学でない。日本でも西洋でも、詩の読者は限定されており、小説のように多方面の読者をもっていない。この広く読まれるという点からすれば、詩は到底小説の比較でなく、民衆的の通俗性がないのである。けだし詩は文学の山頂に立つものであり、精神の最も辛辣に緊張した空気の中でのみ、心臓の呼吸をする芸術であるからだ。