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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

第七章 観照に於ける主観と客観

李白は長安の酒家に酔って、酒一斗詩百篇であったと言う。だがこの意味は、一方に酒を飲みつつ、一方に詩を書いていたということで、泥酔しつつ詩作したということではないだろう。酒に酔ってる時は、感情が亢進して世界が意味深く見えるけれども、実際には決してどんな表現もないのである。なぜならアルコールの麻酔が、観照の智慧を曇らしてしまうからだ。酔人には芸術がない。

第七章 観照に於ける主観と客観

いかなる純情的主観主義の芸術でも、観照なしに表現の有り得ないことは、前章に述べた通りである。では主観主義と客観主義は、どこでその態度特色を異にしているのだろうか。表現に於ての観照を持つことでは、両者共に一致している。しかも自然派等のレアリズムの文学では、浪漫派等を称して感傷的と言い、客観性が無いと言って非難する。たしかに両派の観照に於ける態度は、根本に於てちがったところがなければならぬ。

然り。そこには一の明白な相違がある。即ち主観主義の芸術では、観照が観照として独立せず、いつも主観の感情と結びついてる。換言すれば彼等は、対象の物に就いて物を見ずして、それを自己の主観に引き入れ、気分や感情の中に融かしてしまう。