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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

1

何故に我々は、いつまでも此処に留まり、国境を越えて行くことができないのか。太陽は照り、氷山は流れている。時は既に正午の線を過ぎたけれども、万象は死んで動かず、地上に一の新しい変化もない。永遠に、永遠に、東のものは東を向き、西のものは西を向いている。いかなれば世界の景色は、かくも単調にうら悲しく、よそよそしげに見えるのだろう。

しかしながら我々は、既にこの単調から鬱屈している。今や眠れるものの上に、新しき欲情は呼び起され、世界の変化は近づいている。実に吾人が求めるものは、詩に、文学に、芸術に、文明に、すべてに国境を越えて行こうとする、東からの若い精神である。しかもこの「東方の巡礼」は、既に幾度か出発し、西にあこがれて行き、そして国境のあたりをさまよい、空しくまた家に帰って来た。幾組も幾組も、同じ巡礼の一団が、後から後から出かけて行き、空しく皆道に迷って帰ってきた。かくて永久に、日本は昔ながらの日本であり、地上に一の新しき変化も起っていない。退屈なるかな! 何故にいつまでも、吾人はこの鎖国された島国から、一歩も出ることができないのか?

思うに過去の巡礼等――詩人や、文学者や、思想家や――は、その西方への道を誤っていた。