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しのげんり
詩の原理
萩原 朔太郎
「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页
然るに幸いにも、近代の大心理学者ウイリアム・ゼームスが、これに対して判然たる解決をし、有名な答解をあたえている。曰く一つの同じ寝室に、太郎と次郎が一所に寝ている。朝、太郎が目を覚ました時、いかにして自分の記憶を、次郎のそれと区別するか。けだし自我の意識は「温感」であり、或る親しみのある、ぬくらみの感であるのに、非我の記憶は「冷感」であり、どこかよそよそしく、肌につかない感じがする。自我意識は即ち温熱の感であると。(ゼームス「意識の流れ」)
このゼームスの解説から、吾人は始めて、意識に於ける、自我の本体を自覚し得る。自我とは実に温熱の感であり、非我とはそれの伴わない、冷たくよそよそしい感である。故にすべて温熱の感の伴うものは、吾人の言語に於て「主観的」と呼ばれるのである。然るに温熱の感の所在は、それ自ら感情(意志を含めて)である故に、すべて主観的態度と言われるものは、必然に感情的態度を意味している。反対に情味のとぼしく、知的要素に於て克ったものは、その冷感の故に客観的態度と言われる。例えば可憐な小動物が苛められているのを見て、哀憐の情を催し、感傷的な態度で見ている人は、その態度に於て主観的だと言われる。