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しのげんり
詩の原理
萩原 朔太郎
「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页
さればニイチェが歎いたことは、彼がいかにしても詩人であり、詩人を超越し得ないと言うことだった。だが彼がもし詩人でなく、実にヘーゲルの如き学者であり、ビスマルクのような軍人であり、そして真に鉄製の意志を持った独逸人であったならば、始めからどんなツアラトストラも無かったろう。実に詩は現在しないものへの憧憬であり、所有を欲する「自由への欲情」に外ならないから。
故に詩人は、彼が*気質的のセンチメンタリストであるほど、それほど逆に英雄的な叙事詩の作家になり得るだろう。詩人が権力感情に高翔するのは、駱駝が獅子になろうとし、超人が没落によって始まるところの、人間悲劇の希臘的序曲である。あらゆる文明の源泉はこの叙事詩から始まってくる。故に詩に於けるヒロイズムは、本質的に「悲痛なもの」を情操している。否むしろ、叙事詩の真の魅惑は、その悲痛感によって尽きるのである。悲痛感を外にして、いかなる叙事詩の誘惑もありはしない。いかにゲーテのファウストやダンテの神曲やが、人間的弱小の非力感から、或る超人的なものへ飛ぼうとする悲痛な歎息を感じさせるか。そして支那の詩の多くのものが、沈痛無比な響を以て人生を慷慨悲憤していることぞ。