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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

ヒロイックの権力感を高翔さすのだ。そしてあらゆる叙事詩、及び叙事詩的なものの本質は、この種の深刻なる悪魔的叛逆感に基調している。田舎政治家の煽動演説におだてられて、中学生的無邪気の感激で跳ね廻るような文学は、何等の叙事詩でもなく叙事詩的なものでもありはしない。思想の点は別としても、第一にこうした詩は、真の高翔感的陶酔をあたえるべき、力強きエピカルの音律美を持たねばならぬ。そして詩に於けるこの魅力は、救世軍的大道演説の太鼓のような、がさつな雑音とは別物である。何等かそこには、しっくりとして心に沁み、胸線の秘密にふれ、深い詩情の浪を呼び起してくるようなもの、即ち音律としての「美」がなければならない。

実に驚くべきことは、今日の日本の詩に、一もこの音律美がないということである。その或るものは単調にぼたぼたとし、他の或るものはがさつに粗暴な音声をふり立てている。抒情詩的にも、叙事詩的にも、一も心に浪を起し、真の詩的陶酔を感じさせる自由詩がない。そしてこんな没音律の詩というものは、支那にも西洋にも、昔にも今にも、かつて見たことがないのである。西洋近代の詩はもとより、日本の原始の自由詩でも、すべて詩としての魅力があるところには、必ず特殊の音律美がある。