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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

そしてこの一つの線こそ、主観を高調する叙事詩的の精神であり、日本人が欠陥している貴族感の情操である。すべてに於て、我々は先ずこの文明情操の根柢を学んでしまおう。そしてこの同じ線の上から、あらゆる反対する二つのもの――個人主義と社会主義、貴族主義と民衆主義、理想主義と現実主義――とを向き合わせ、同一軌道の上で衝突させよう。実に吾人の最大急務は、西洋のどんな近代思潮を追うことでもなく、第一に先ず吾人の車を、彼等の軌道の上に持って行き、文明の線路を移すことだ。もしそうでない限り、日本にどんな新しい文芸も、どんな新しい社会思潮も生れはしない。なぜなら我々の居るところは、始めから文明の線がちがっているから。そして別の軌道を走る車は、永久に触れ合う機会がないのだから。

いかに久しい間、この真実が人々に理解されず、徒労が繰返されたことであろうか。我々のあまりに日本人的な、あまりに気質的にデモクラチックな、あまりに先天的にレアリスチックな民族が、外国とはまるで軌道のちがった線路の上で、空しく他のものを追おうとして、目的のない労力をしたことだろうか。明治以来、我々の文壇や文明やは、その慌しい力行にかかわらず、一も外国の精神に追いついてはいなかった。