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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

でなければならない。然るに世には「理想的なもの」に反対するところの、反理想主義の主義がある。即ち例えば、「現実主義」とか「無理想主義」とか「虚無主義」とか言う類の主義である。

これはどうした矛盾であろうか? いやしくも人が主観を掲げ、或る理想への観念を持たない中は、主義と言う如きものはありはしない。然るに彼自身が主義であって、しかも理想を拒絶する主義とはどういうわけか? だがこの不思議は不思議でない。何となれば「理想を否定する主義」は、それを否定することに於て彼自身の理想(観念界)を見出すからだ。例えば仏陀の幽玄な哲学は、一切の価値を否定することに於て、逆に価値の最高のもの(涅槃)を主張している。そして所謂ニヒリズムは、存在のあらゆる権威を否定しながら、逆にその虚無に権威を感じ、そこに彼自身のイデヤを見ている。ダダイズムの如きも「一切の主義を奉じない」と言いながら、その「主義を奉じない主義」を奉じてる。故に絶対の意味で言えば、世にイデアリズムでないところの、どんな主義も有り得ない。一切主義であるすべてのものは、それ自ら理想的であり、観念的であるのだ。