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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

この両者の関係は、丁度二人の旅人にたとえられる。主観主義者にあっては、旅行は目的地に急ぐためであって、旅行するための旅行でない。彼等は慌だしげに歩き、四囲の風景や人情などを、まるで観察しようと思っていない。反対に客観主義者は、旅行する事それ自身に、興味を持ってる旅行者である。もちろん彼等も、一定の目的地は持ってるだろう。だがそれに達すると達しないとは、主観に於てどうでも好いので、より当面の興味や仕事は、周囲の社会を観察し、人情を調べ、風俗を知り、世態を眺めることにかかっている。そして実に、旅行そのものの真意義が此処にあるのだ。故に後者は「旅行のための旅行」であり、真の意味の旅行家と言うべきだろう。これに対して前者は、旅行それ自体に意義を認めない旅人であって、人生の慌だしき、性急なる飛脚である。

この典型に属するものは、多く宗教家、求道者、主義者、哲学者等に見るものであって、芸術家の中には稀れである。なぜならば芸術家とは、芸術すること自身――芸術のための芸術――に、直接の興味をもつ種族だから。実に小説家や戯曲家やは、その最も主観的な作家であってさえも、やはり人生を観察し、風俗を描写し、表現を表現すること自身に於て、当面の直接な興味をもってる。