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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
夏の命は日と水だ。照らねばならず、降らねばならぬ。多摩川遠い此村里では、水害の患は無いかわり、旱魃の恐れがある。大抵は都合よく夕立が来てくれる。雨乞は六年間に唯一度あった。降って欲しい時に降れば、直ぐ「おしめり正月」である。伝染病が襲うて来るも此月だ。赤痢、窒扶斯で草葺の避病院が一ぱいになる年がある。真白い診察衣を着た医員が歩く。大至急清潔法施行の布令が来る。村の衛生係が草鞋ばきの巡査さんと溷、掃溜を見てあるく。其巡査さんの細君が赤痢になったと云う評判が立つ。鉦や太鼓で念仏唱えてねりあるき、厄病禳いする村もある。
其様な騒ぎも何時しか下火になって、暑い/\と云う下から、ある日秋蝉がせわしく鳴きそめる。武蔵野の秋が立つ。早稲が穂を出す。尾花が出て覗く。甘藷を手掘りすると、早生は赤児の腕程になって居る。大根、漬菜を蒔かねばならぬ。蕎麦、秋馬鈴薯もそろ/\蒔かねばならぬ。暫く緑一色であった田は、白っぽい早稲の穂の色になり、畑では稗が黒く、黍が黄に、粟が褐色に熟れて来る。粟や黍は餅にしてもまだ食える。稗は乃木さんでなければ中々食えぬ。此辺では、米を非常、挽割麦を常食にして、よく/\の家でなければ純稗の飯は食わぬ。