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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
二
二
二月は村の正月だ。松立てぬ家はあるとも、着物更えて長閑に遊ばぬ人は無い。甲州街道は木戸八銭、十銭の芝居が立つ。浪花節が入り込む。小学校で幻燈会がある。大きな天理教会、小さな耶蘇教会で、東京から人を呼んで説教会がある。府郡の技師が来て、農事講習会がある。節分は豆撒き。七日が七草。十一日が倉開き。十四日が左義長。古風にやる家も、手軽でやらぬ家もあるが、要するに年々昔は遠くなって行く。名物は秩父颪の乾風と霜解けだ。武蔵野は、雪は少ない。一尺の上も積るは稀で、五日と消えぬは珍らしい。ある年四月に入って、二尺の余も積ったのは、季節からも、量からも、井伊掃部さん以来の雪だ、と村の爺さん達も驚いた。武蔵野は霜の野だ。十二月から三月一ぱいは、夥しい霜解けで、草鞋か足駄長靴でなくては歩かれぬ。霜枯れの武蔵野を乾風が々と吹きまくる。霜と風とで、人間の手足も、土の皮膚も、悉く皹赤ぎれになる。乾いた畑の土は直ぐ塵に化ける。風が吹くと、雲と舞い立つ。遠くから見れば正に火事の煙だ。火事もよくある。乾き切った藁葺の家は、此上も無い火事の燃料、それに竈も風呂も藁屑をぼう/\燃すのだからたまらぬ。