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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
ある夜
余は三時過ぎから、ある事の為にある若い婦人を伴うて、粕谷から高輪に往った。午後の六時から十一時過ぎまで、ある家の主人を訪うてある事を弁じつゞけ、要領を得ずして其家を辞した時は、最早十二時近かった。それでも終電車に乗るを得て、婦人は三宅坂で下りて所縁の家へ、余は青山で下りて兄の家に往った。
寝入り端と見えて、門を敲けど呼べど叫べど醒めてくれぬ。つい近所に姪の家があるが、臨月近い彼女を驚かすのも面白くない。余は青山の通を御所の方へあるいて、交番に巡査を見出し、其指図で北町裏の宿屋を一二軒敲き起した。寤めは寤たが、満員と体の好い嘘を云って謝絶された。
電車はとくに寝に往って了った。夜が明けたら築地の病院に腫物を病んで入院して居る父を見舞うつもりで、其れ迄新橋停車場の待合室にでも往って寝ようと、月明りと電燈瓦斯の光を踏んで、ぶら/\溜池の通を歩いて新橋に往った。往って見ると此は不覚、扉がしまって居る。駅夫に聞くと、睡むそうな声して、四時半まではあけぬと云う。まだ二時前である。
電燈ばかり明るくてポンペイの廃墟の様に寂しい銀座の通りを歩いて東へ折れ、歌舞伎座前を築地の方へ往った。