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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
百草園
彼はホウッと長い息をついた。
「それから私は主人に詰問の手紙を書きました。すると翌日主人が私を書斎に呼びまして『ドウも実に済まぬ事をした。主人の俺が斯う手をついてあやまるから、何卒内済にしてくれ。其かわり君の将来は必俺が面倒を見る。屹度成功さす。これで一先ず内地に帰ってくれ』と云って、二百円、左様、手の切れる様な十円札でした、二百円呉れました」
「君は其二百円を貰ったンだね、何故其短刀で其男を刺殺さなかった?」
彼は俯いた。
「それから?」
「それから一旦内地に帰って、また大連に行きました。最早主人は私達に取合いません。面会もしてくれません」
「而して今は?」
「今は東京の場末に、小さな小間物屋を出して居ます」
「細君は?」
「妻は一緒に居るのです」
話は暫く絶えた。
「一緒に居ますが、面白くなくて/\、胸がむしゃくしゃして仕様がないものですから、それで今日は――」
*
忽然と風の吹く様に来た男は、それっきり影も見せぬ。
百草園
田の畔に赭い百合めいた萱草の花が咲く頃の事。ある日太田君がぶらりと東京から遊びに来た。暫く話して、百草園にでも往って見ようか、と主人は云い出した。