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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
三
故人片市の婆さんと、故人菊之助の伝兵衛が独神妙にお婆さんになり伝兵衛になって舞台を締めて居る。余は菊之助が好きだった。彼が真面目な努力の芸術は、若いながらも立派なものであった。彼は自身がする程の役には、何様な役でも身を入れて勤めた。養父も義弟も菊五郎や栄三郎寧寺島父子になって了うた堀川の芝居の此猿廻わしの切にも、菊之助のみは立派な伝兵衛であった。最早彼は此世に居ない。片市も、菊五郎も居ない。
夥しい拍手が起った。吾に復ると呂昇と昇華が演壇の上に平伏して居た。
三
堀川は十時十五分に終った。外に出ると、雨がぼと/\落ちて居る。雨傘と、懐中電燈の電池を買って、電車で新宿に往った。追分で下りて、停車場前の陸橋を渡ると、一台居合わした車に乗った。若い車夫はさっさと挽き出す。新町を出はなれると、甲州街道は真暗で、四辺はひっそりして居た。余程降ったと見えて、道が大分悪い。
「旦那は重うございますね。二十貫から御ありでしょう」
「なまけるからね」
「エ、如何しても体を烈しく使うと、ふとりませんな。私ですか、私は十四貫しかありません」
車夫は市川の者、両親は果て、郷里の家は兄がもち、自身は今十二社に住んで、十三の男児を頭に子供が四人、六畳と二畳を三円五十銭で借り、かみさんは麻つなぎの内職をして居る。